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TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.147

TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.147
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■■    TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.147


配信数:約6650 配信実績:2008年8月19日より隔週発行
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■4月以降の関連イベント

●今回のトピック
・「知的財産戦略」(丸島儀一 著)を読む(16)

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●今週の一冊
「ケインズとハイエク―〈自由〉の変容」間宮 陽介

今週は少し固めの本で。

「自由」に関する経済学者の議論は歴史が古く、アダム・スミス、ミル、
ロールズ、最近では「白熱教室」で有名になったハーバード大のサンデル教授が、
たびたび論じています。


本書の一つのトピックは、「自由」主義と「自由放任」主義。

その違いはなにか。


自由主義は、人間の不完全性から出発している。

「個人的自由を擁護するのは、我々の目的と福祉の成就を支配する多数の
要素に対して、我々がいずれも無知を免れないことを認める点にある。」
(ハイエク)


しかしそれは、慣習や伝統を否定するものではなく、

「人間に利益をもたらす知識、方法、規則などが、時という試金石に
かけられて生き残ったもの」

であり、むしろ積極的に

「自由を助長する。」(ハイエク)


決まりがあることで、「他の人がどう動くか」予見することが可能になり、
各人の行動の自由度は、むしろ大いに高まる。


何事においても「判断基準(規則・規範)」と「情報」を十分に与えられる
ことが、各自が正しく自由を追求できる、前提条件である。

なぜ組織が「情報共有/開示」を必要とするか、ここに根源がある。組織と
して「個」を活かし、自由を追求させるためである。それが「組織の厚生
(welfare)」を効率よく向上させる、唯一の手法である。

ここに「経済学的思考」の、出番がある。


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/////////4月以降の知財セミナー情報///////////////


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・4月9日「特許情報を活用したアイデア・発明の発想法」(秋好)
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その名もズバリ

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若手技術者の方に、いかがでしょうか?

弊社では今後も、「実際に参加してみて良かった」セミナーについて、情報発信します。



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★★「知的財産戦略」(丸島儀一 著)を読む(16)

前回(15)では、「第三者の特許権を認識した研究開発活動」について、

(1)「技術動向調査とともに権利情報調査を欠かさない」
(2)「先行特許の特許マップは、時間軸を考慮して評価する」

が重要であることを、学んだ。

・「知的財産戦略」(丸島儀一 著)を読む(15)~TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.145
http://bit.ly/1mpFyp5


今回も引き続き「第三者の特許権を認識した研究開発活動」を、取り上げる。今回の
要点は、以下2点である。

1)「権利の実態を検討」し、正しく認識する
2)「問題特許の解決方法」を明確にする

順に見ていこう。


1)「権利の実態を検討」し、正しく認識する
先行特許の調査を行い、関連する特許を選び出した後は、

「その特許が本当に自社の研究テーマに影響を与えるか」P88

を、請求項を読み込んで判断することになる。また、一般的に、

「研究者は、相手の知的財産を過小評価する傾向」P88

があり、注意が必要である、としている。この「権利の実態」を把握する作業が調査に
おける最も重要な作業であり、知財部門で「やらねばならない」仕事である。

特許法の正確な理解はもちろん、最新の判例に常に通じ、必要に応じてベテラン技術者
にも、同様のことを学ばせ、先行特許を正しく評価できる環境を作る必要がある。


2)「問題特許の解決方法」を明確にする
自社の研究テーマに影響を及ぼす可能性のある特許を選び出した後、その特許が事業化
されているのか、権利として活用されそうかなど、実際に問題になるかどうかを検討する。

それには「技術、事業/企業活動/製品、権利」など複数の視点が必要になるため、

「研究開発部門と知財部門の連携が必須」P89

である。この後、丸島氏の「事業のための知財」「研究のための知財」「知財のお陰で、
と言われるように」に繋がる「問題特許の解決法」に関する考えが、述べられている。
少し長いが、全文引用したい。

「第三者の特許が自社の研究に影響があると判明したら、知財部門ではその特許を
どのように解決していくかを考える。ここが知財部門の活動のなかで、一つの大きな
ポイントとなる。」P89

つまり「問題特許の解決」こそが、知財部の重要な仕事だとしている。アタリマエかも
しれない。では、なぜ「問題特許を解決」するのか。これは「どう解決するか」にも
つながってくる。

「適切な解決方法を見出して、研究部門が安心して研究を続行できる環境を整えること
こそが、知財部門の重大な役目だからである。研究部門が、先行特許を心配しながら
研究をするのか、安心して研究するのかでは、研究の難しさだけでなく、成果にも相当な
違いが出てくるはずだ。知財担当者は、研究者のことを考え、研究者がよい成果を出せる
ように働くのである。」P89

つまり、「先行特許を気にせず」「安心して自由に」研究を行える環境を整えることこそ、
知財の仕事であり、それにより「研究の成果」「技術」がより良いものになる、と。

知財の仕事の本質は「頭脳と技術の価値/成果の最大化」であり、それこそが「事業の
ための知財」だ、ということではないだろうか。


「攻めと守り」の考え方についても、そもそも、

「先行特許を回避する一方の技術開発は、本来、その企業や研究者が持つ”技術力”と
”頭脳”を活かすことが出来ず、成果につながらない」

という思想が反映されたものと、理解できる。繰り返しになるが、つまり知財戦略とは

「企業や研究者が本来持つ”技術力”と”頭脳”の価値と成果を最大化する具体的方略」

と、定義できる。


話を元に戻そう。解決するのは「早めが良い」としている。

・費用の問題
・研究に自由度を与える

が、その理由として挙げられている。費用については、

「自社の研究が進むにつれ特許出願公開などの情報から自社の研究開発動向を相手が知る
ことができる。その時になってからでは、基本特許の評価が高まってしまい、安易には
解決できない場合も生じる」P89-90

ので、「手の内が知れない」早めの解決が良い。知財の戦いは「基本的に情報戦」だから
である。

また「自由度」については、

「研究の方向は発散するものなので、想定する発散範囲に存在する基本特許も検討して
早めの解決を図る。結果として研究成果の実施に関係なくなる場合も生じるが、研究者に
研究の自由度を与え、よい研究成果を得る意味から、これが必要なのである。」P90

と、研究者の能力を活かし、成果を最大化する視点で語られている。合わせて、

「研究成果の事業化率が低いことを理由に、事業化が決定されてから解決すればよいとの
指摘もあるが、その時になってからでは解決が難しくなるため、この考えは間違いである。」
P90

と、先送りにする危険を指摘している。もちろん、解決できない場合の「止める勇気」
についても言及している。



最後に「検討の結果を記録に残す」」ことについて、触れている。

「ただし、問題を認識したら、すべてをただちに解決しなければならないわけではない。
事業化の時期までに解決すればいい問題もある。この時点で重要なのは、解決方法を明確に
しておくことである。」P89

「先行特許の調査、検討を行うに際しては、その記録を研究者のラボノートと同様に訴訟を
意識して残すことも大切である。”この特許は問題だ”とだけ書くのではなく、”このように
解消する”という結論まで書いておくのである。」P90

訴訟を意識した記録、は今後益々重要になる可能性が高い。

「記録は、調査、検討した先行特許に関して、将来どのような訴訟が起こる可能性があるか、
どこで訴訟されるか、訴訟の相手は誰かなどを想定して、状況に思いをめぐらせながら、
整理しておく。」P90

これらの記録が「訴訟で切り札になることがある」との言葉は、非常に重い。



次回以降は、産学連携も含めた「アライアンス」について見ていく。これも、知財に関して
多くの注意点があり、技術者も含め、精通しておくべき内容である。



※注1)図、ページ数等は、第1刷に基づきます。
※注2)本連載は、弊社独自の解釈に基づくものです。




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ノウハウにより、御社の発明力と知財力を確実に向上、事業に貢献する知財活動の実践につなげます。


その他、各種ご相談、教育カリキュラム、教育内容、教材に関するお問い合わせも、
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「1日1日、重ねていく」佐藤陽一(ソムリエ)

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TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.146

TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.146
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■3月以降の関連イベント

●今回のトピック
・「国際標準化と事業戦略」(小川紘一 著)を読む(15)

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●今週の一冊
「知」のスピードが壁を破る―進化しつづける組織の創造」平尾 誠二

ラグビーの名門 伏見工業高校 でチームを花園へ、そして優勝へ導き、その後、
神戸製鋼、全日本代表/同監督と、常にラグビー界をけん引し続けてきた平尾氏の
「結果を出すための組織論」。

日々、不確実な状況でチームを引っ張り、成果を出さねばならない、すべての
リーダーへ。そして、「自律/自立した」個人を目指す、すべての人へ。


①ラグビーで必要な精神力は、闘争心と集中力=ファイティングスピリットと
コンセントレーション。タックルに行けないのは闘争心の欠如。疲れてボール
を落とす、これは集中力の欠如。闘争心を鍛えるには「自分がなぜラグビーを
やっているのか」という、根本から問い直す必要がある。集中力が欠如して
いるのであれば、集中力の支えとなる体力を鍛えなければならない。

②オフィスがアリーナに、会社員がプレーヤーに、企業はチームに変わる。
その時にプレーヤーに求められるのは、「自己責任と高度なスキル」である。

③情報とは地図のようなものだ。行きたい場所がなければ地図など必要ない。
地図があっても、みているだけではどこへも行けない。目的地があってはじめ
て地図は必要とされる。データを使うのは、選手の技術を向上させ、自発性を
育成するためで、ミスを注意するためではない。

④難しいことにチャレンジするのをエンジョイする。チャレンジとエンジョイを
結びつけるのがスポーツである。単に楽しいのか、それとも「限界に挑戦する
のが楽しいのか」

⑤ボールを宝石に例えると、1番から5番までが原石を掘り起こし、ミッド
フィルダーがマーケティングリサーチを行い、加工し、宣伝する。11番
14番15番が営業で顧客に売り込むのだ。

⑥スピーディーなゲームでは、ボールに一番近い人間が、そのボールに対応
しなければならない。必要とされるのは、自分のスペシャリティーをもちながら、
マルチファセットに対応できるマルチスキルを持つ選手である。

⑦「クイック&オプション」クイックで時間軸を稼ぎ、オプションで選択肢
(空間)を稼ぐ。


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/////////3月以降の弊社講師セミナー情報///////////////


★3月18日「高収益企業クアルコム等から学ぶ!
            バリューチェーンを支配し10年先まで勝つ方法」(楠浦)
 知財戦略で成果を上げている企業の具体例を交え、知財戦略/知財創出法を解説します。
 本内容でのセミナー(楠浦担当)は、今回が最後となる予定ですので、この機会に是非!
 http://bit.ly/MShP1T

★4月9日「特許情報を活用したアイデア・発明の発想法」(秋好)
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★★「国際標準化と事業戦略」(小川紘一 著)を読む(15)

前回(14)では

・IBMは、モジュラー化したPCにおいて、CPUが最も重要な部品であることに気づいていた

が、適切な手を打つ「タイミング」を逸し、さらに

・Intelがセカンドソースを廃止できるまで、力をつけたこと
・互換機メーカー Compaq が、いち早く技術成果を取り込んだこと

が重なり、Intelが「CPUというコア部品の技術進化を独占し」「その成果をいち早く回収する」
戦略の確立につながった、ことを学んだ。

・「国際標準化と事業戦略」(小川紘一 著)を読む(14)~TechnoProducer ビジネスに「効く」知財 Vol.144
 http://bit.ly/NUNMHe


今回は、Intelが「コア部品とその技術進化の独占」と「大量普及」のために行った「仕上げの一手」
を見て行きたい。慶応義塾大学ビジネススクール 岩本教授を中心に毎月開催している「国際標準化と
事業戦略」勉強会を通じて、弊社 橋本(はしもと)が作成したケーススタディを引用し、進めたい。
なお、本ケーススタディは2014年度に、弊社講師が担当している各大学/大学院の一部の講義にて、
標準教材として取り上げ、広く「理系の学生が、知財に興味を持つ」きっかけとしたい。

ズバリ「技術の標準化とコア技術以外のノウハウの公開によって、成長期に市場の支配権を得る」が、
その戦略のコンセプトである。


「1980年代後半まで、PCのバス・アーキテクチャは、IBM(MCA)やCompaq(EISA)など、完成品
メーカーが標準化を主導しており、PC業界の支配力はまだ完成品メーカー側に残っていた。しかし、
ムーアの法則に従い急速に独自進化を続けるIntelにとって既存のバス・アーキテクチャは、自社
製品の能力を最大限活かすことが出来ないものになっていた。」

ここで取り上げているPCの構造(バス・アーキテクチャ)については、「国際標準化と事業戦略」
(小川)P130図5.2および、P132図5.3を参照されたい。

IBMとその互換機メーカーは、研究開発によって自社独自の「バス・アーキテクチャ」を開発し、
周辺機器の互換接続性と、自社PCの高性能化を両立させる仕組みを築いていく。周辺機器の接続
互換性を確保し、独自の進化を許すことで、いわゆる「ネットワーク外部性」により、PCの普及と
性能向上を達成していく。

これを、「CPU」という更に内部の部品から仕掛けたのが、「Intel」である。


「そこでIntelは社内にIAL(インテル・アーキテクチャ研究所)を設立し、自らバス・アーキテクチャを
策定することで、この状況を打破した。具体的には、高速PCIバスのオープン標準化と、North Bridge-
South Bridgeという2つのブリッジ構成の提唱である。」

Intelは、PC自体をモジュラー化し、CPUとその周辺のごく一部の部品以外に、高い接続互換性を
持たせられるような「バス・アーキテクチャ」を開発し普及させることで、完成品の開発/組み
立てに残っていた付加価値を収奪し、自社の利益につなげる戦略を仕掛けた。

次へ行こう。


「Intelは、CPUとNorth Bridgeを繋ぐインターフェースは公開せずブラックボックス化しながらも、
メモリやグラフィックなど高速処理が要求され機器への接続はNorth Bridgeを介させ、HDDやDVD
などの周辺機器はSouth Bridgeを介して、オープン標準化されたインターフェースで接続可能な
アーキテクチャへと変えたのである。これによって、IntelのCPUは他の周辺機器に影響されること
なく、独自に処理速度を向上させることが出来るようになり、周辺機器側もIntelのCPUへの影響を
考えることなく独自進化が可能になった。」

Intelは、自らが主導するバス・アーキテクチャを普及させることで、自社の技術ノウハウを開示せず
PC全体の価値を左右するCPUの改良/開発を独自に行えるようになる。これは同時に、周辺部品への
新規参入を促すことで価格競争を起こし、部品単価の低減による完成品価格の下落/大量普及と、
CPUの販売価格(=収益)維持を両立させる仕掛けであった。


「そして、Intelは自社に有利となるこのモデルを普及させるために、マザーボードを低コストで
量産させるために、台湾企業へ製造レシピ(マザーボードの配置・配線規格)を公開した。この
レシピは規格だけでなく設計・製造・検査のレシピまでも含んでいた。これによって多くの台湾企業が
マザーボード市場に参入できるようになった。これにより、完成品メーカーに残っていたチップセット
付きマザーボードの付加価値まで、Intelは収奪し、支配権を確固たるものにした。」

仕上げとして、自社CPUをマザーボード(配線基板)に実装するノウハウを台湾企業に公開し、自社
CPUを搭載したマザーボードを安価に大量普及させることで、誰でも「自社CPUを用いた」PCが作れる
状態を作りだし、PCの技術進化を完成品メーカーが主導する余地を、完全にシャットアウトした。


経緯を、簡単にまとめてみよう。

・既存のバスアーキテクチャは、完成品メーカーが主導したもので、完成品メーカーに付加価値を
維持する仕組みである。
・Intelが支配力を持つために、自社に都合がよい独自のバスアーキテクチャを主導し、普及を仕掛けた。
・独自バスアーキテクチャは、モジュール化を徹底し、周辺機器の独自進化も促し、PCシステムの
高性能化、低価格化、大量普及を推進するためのものであった。

・ATX規格を策定し、台湾メーカーにマザーボードを作らせて、自社チップ/技術を搭載しつつ、
組み立て互換性が高いモジュールを低価格大量普及させた。
・完成品は差別化要素を失い、完成品の付加価値は極限まで下がり、製品進化を主導できなくなり、
インテルの支配力が益々強まっていった。


これら経緯からわかる、部品/モジュールメーカーの打ち手のポイントは、

①市場が成長する段階で、モジュラー化を仕掛け、自社モジュール以外へ競合参入と独立した技術進化を
可能とし、完成品の低価格化と大量普及を加速し、

②合わせて、自社モジュールでの独占を維持するための仕掛けを徹底。Intelの場合には、複数のバス
ブリッジで技術仕様を巧妙にブラックボックス化、

③これらを、自社以外が完成品の技術進化を主導できなくなるように、徹底的に、かつ素早く行う

の、3つである。


既に過去のメルマガで討議した内容である、

④標準化争いではモジュールメーカーが有利であること

⑤あわせて、自社モジュールの上流を無力化する必要があること
(Intelの場合は、製造設備とウエハーの標準化)

も踏まえれば、「事業戦略において、標準化をどう使い”武器”にするか」は、自ずと見えてくる。
これら内容を検討した上で「何を発明し、権利化すべきか」を議論し、発明創出活動、権利化活動に
落とし込んで行くと、日々の「”戦略的”知財活動」となる。


弊社では、このような巧妙な仕掛けにより自社モジュール(レイヤー)の独占と、他レイヤーの付加
価値収奪により、完成品の大量普及、自社モジュールの高収益化と、それを基にした巨額の研究開発
投資で、技術進化を常に主導する企業を、「イネーブラー」と定義している。

イネーブラーとは、

「自社技術の価値を、知財と標準化という”最強のレバレッジ”ツールを用いて最大化し、普及させ、
世界を変えていく」

企業である。まさに、「技術経営」の本質と言える。

現在、慶応義塾大学 岩本教授と、「イネーブラー戦略」について、他産業での事例も含め、詳細に検討し
理論化を試みている。その成果の一部は既に、各種学会にて発表済みである。

今後も引き続き、学会や大学講義でのケーススタディを通じて、情報発信を続けていきたい。


次回以降は、第3世代携帯電話のイネーブラー、クアルコムの事例を取り上げる。これも「国際標準化と
事業戦略」勉強会のケーススタディを基に、一部、立命館大学での講義内容、発明塾での討議内容を交え
見て行きたい。



※注1)図、ページ数等は、第2刷に基づきます。

※注2)本稿は、弊社が主催する「国際標準化と事業戦略研究会」の研究成果に基づくものです。無断転載、
引用を禁止します。研究会では、本書には取り上げられていない様々な業界の、知財戦略/標準化戦略を
駆使した事業戦略はどうあるべきか、今後も事例研究を進め、学会等で発表する予定です。お楽しみに。

※注3)小川先生の最新刊として「オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件」が発売されました。
    http://bit.ly/1eM3azn




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ほとんどのことは、それで解決する」
-詠み人知らず

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